恋を知らない人魚姫。


「なっ……」

別に、絶対に両思いだとか、信じ切っていたわけじゃない。
でも、全く期待していなかったと言えば、嘘になる。

だって、後輩を帰らせて、ふたりっきりになった図書室で、体を近付けたりするから。
あたしの話を黙って、聞き続けたりするから。

そんな、思わせぶりとも言える態度を取っておきながら、あたしの告白にあからさまに困るとか……正直キツイ。

「ごめんっ」

悔しくて、悲しくて、恥ずかしくて。
いっそのこと此処から消えてしまいたくて、あたしは彼の前から立ち去ろうとした。

だけど、それを遮ったのは櫻井くん。

涙を拭うのとは逆の手を、ぱしっと掴んで引き寄せて……、


正面からぎゅっと、あたしを抱きしめた。


ふわっと鼻をくすぐる香水の香りと、全身で感じる温もり。

締め付けられているのは体なのに、胸の奥がきゅっと苦しい。

「っ、からかってるだけならやめて!」

声を荒げ、体を離そうとすると、

「からかってない」

櫻井くんは回した腕に、更に力を込めた。