恋を知らない人魚姫。


震える指先。
一度目を閉じて、大きく息を吐く。

伝えたいことが、ちゃんと言えるように。

あたし……あたしね……。


「今の自分は、嫌いじゃないの」


あんなに嫌だったのに。
未来へ進んでいくのが、怖かったのに。

全てを晒して、打ち明けて、今ここに立っている自分は……嫌いじゃない。


「あたしがちゃんと前を向けたのは、櫻井くんのおかげ。今ならあの言葉の意味も、分かるよ」

『可哀想な人魚姫を助ける』って言った、あの言葉。それは、


「溺れ死んでしまいそうだったあたしを、助けようとしてくれたんでしょ……?」


絶対に叶わない恋をして、愛海しか見えてなくて、広い海で溺れかけていたあたしを、櫻井くんは見付けて、救おうとしてくれた。

ただ、あまりに強く手を引っ張るから痛くて、船の上に引き上げられるまで、気付けなかった。

「余計なお節介って、言いたいところだけど……感謝してる」

櫻井くんがいなかったら、あたしはきっと今でももがいてた。

もしかしたらそのまま、暗い海の底に沈んでいたかもしれない。

それは、時間の問題で。