恋を知らない人魚姫。


「え、でも……」

「大丈夫。俺らも図書委員だから」

振り返ってみると、櫻井くんが女の子を説得していて。

「鍵は? 預かるよ」

「あっ、えっと……」

ふたりはあたしひとりを残し、カウンターの方へと歩いて行く。


……どういうこと?

状況がいまいち飲み込めない。

だって、あたしのあの態度からすると、そのまま帰る流れになるのが普通。

それなのに、どうして図書委員の子を先に帰らせたりしてるの……?


遠くなる話し声は、そのまま聞こえなくなって。
それから少しして、近付いて来た足音に、胸の鼓動が早くなる。

やだ、ちょっと待って。
まだ頭の中の整理が出来ていないのに!

くるんとまた本棚の方へと向いて、身構える。そんなあたしの心の中の声なんか、聞こえるはずもなく、

トン、と本棚に伸ばされた片腕。

櫻井くんは、あたしのすぐ後ろに立って耳元で、

「さっきの話の続き」

と、言った。