恋を知らない人魚姫。


「6時になったので、そろそろ閉めようと思うんですけど……」

申し訳ないと言わんばかりの様子で、遠慮がちに掛けられた声。

変に気を遣われているのが分かって、あたしは思わずパッと目を逸らす。

代わりに「あぁ……」と返事したのは、櫻井くん。


そっか。図書委員の下級生の女の子が居たんだった。

ここに居られるタイムリミットは6時。

もう……終わり。


どうしようかと相談しようとしたのか、チラッと櫻井くんに視線を向けられて、あたしは反射的に背を向けた。

そして、人魚姫の絵本を、本棚へと戻そうとする。

本当はまだ、言いたいことが残っているのに、それを伝えることすら出来そうにない。
どうしてこうも本心とは真逆なことをしてしまうんだろう。

胸が苦しくて、イライラする。

後悔しか出来ない自分に、自己嫌悪……していた時だった。


「ごめん、ちょっとまだ探し物があるから。俺らが鍵、閉めとくよ」


後ろから聞こえた櫻井くんの声に、ピタッと手を止める。