恋を知らない人魚姫。


絵本の中から図書室に、目の前の現実に、急に呼び戻されて。

パッと顔を上げて振り返ると、少し距離を置いて、後ろに立っていたのは、

櫻井くんーー。


久しぶりに顔を合わせた。

あたしの心臓は、ドクンッと一度大きく跳ねる。

それなのに彼は、

「そっちが呼び出したのに、何で月城さんが驚いた顔してんの」

クククと笑って、いつも通り。
何も変わらない。

呼び出したのは、確かにあたし。
だけど驚いたのは、櫻井くんがメールの返事をくれなかったからだ。

そのことを責めようかとも思ったけど、あたしは口を噤んで目を逸らした。

だって、何か悔しい。
いつも通りの態度が、何か。


そんなあたしの気持ちなんて知らず、近付いて来た櫻井くんは、

「また読んでたんだ?」

あたしが手にしていた本を見て、クスッと笑った。

「何だかんだ言って、やっぱり気になっちゃう感じ?」

まるでからかうみたいに、軽く言う。

でもあたしは、同じノリでは返せない。