恋を知らない人魚姫。


王子様の眠る部屋。
忍び込んだ人魚姫の手には、短剣。

振りかざして、彼の喉を貫こうとする。

だけどその手は、ギリギリの所で止まって。

短剣を床に落とし、ぽろぽろと涙を零しながら走り出した人魚姫は、そのまま海に……身を投げた。


「……」

どうして……かな。

こんなの、実話でも何でもないただの童話なのに、胸が苦しくてたまらない。


どうして人魚姫は、自らを犠牲にしなきゃいけなかったんだろう。

どうして無理に、人間になろうとなんてしたんだろう。

どうして、人間なんかに恋してしまったんだろう。

ねぇ、どうして。


……なんて、童話の中の人物相手に、必死に考えてみるけれど、そんなの愚問。

後先考えて心を動かすことが出来れば、誰も後悔なんてしないの。

間違いを犯すことなんて、ないの。


それは、あたしが一番よく知ってる。

彼女は彼女できっと、自分の心の声に素直に従っただけだ。

ただね、人魚姫……。


一面に描かれた、船の上から海へと身を投げた人魚姫のイラスト。

想いを馳せて、それをそっと指で撫でた……とき。


「……何してんの?」

静かな空間に、突如響いた声。