恋を知らない人魚姫。


文庫サイズの小説が並べられたコーナー。

目の付いた一冊に手を伸ばしかけて、その手を引っ込めた。

そして、思い出したように別コーナーへ向かう。


どこだろう。
どこにあるんだろう。

記憶にある本の形を頼りに、探す。

図書委員の子に、パソコンで探して貰えば早いけど、本が本だけに、少し気が引けて。

歩き回って見付けた、児童書が並ぶ一角。そこに、探していた本はあった。


本と本の間から抜き出して、表紙を自分へと向ける。

深い深い碧。
その中心に描かれた、尾ひれのついた女の子。

あたしが手にした本は……人魚姫。

ひとつ呼吸を置いて、ゆっくりその本を開いてみると、少し懐かしい感じがした。


海の底で、幸せに暮らしていた人魚姫。

だけどある時、嵐の夜に助けた人間の王子様に、恋をしてしまう。

想いを募らせた人魚姫は、自ら魔女の所へ出向き、美しい声と引き換えに、人間の姿へと変えてもらうーー。


前にも、ここまで読んだことがあった。

その時のあたしは、人魚姫に自分の姿を重ねていた。

王子様の恋愛対象になりたかった人魚姫と、
愛海の恋愛対象になりたかったあたし。