恋を知らない人魚姫。


愛海が本気で心配してくれているのは、充分すぎるほど分かっている。

だから、こんな態度をとってしまうのはおかしいのも分かっていて……。


だけど、すごく嫌だった。


あんな風に、櫻井くんと話している愛海が。

その姿は、まるで櫻井くんと付き合っているかのように見えて。

あたしと一緒にいる時よりも……楽しそうで、幸せそうで。





「じゃあ私、帰るから」

18時。図書室を閉めるその時間になったと途端、クラスメートは立ち上がった。

あたしが顔を上げると、その子はもう背を向けて歩き出していて……あたしは小さくため息を漏らす。

再び顔を下ろせば、今日返却された本が、そっくりそのまま残っている。

あの子、一体何をしに来たんだろう……。

やっていたことと言えば、ひたすらケータイをいじること。

本を棚に戻しに行くことはおろか、貸出の対応をしてくれる様子もないから、あたしもカウンターを離れられなくて。

いつもならとっくに終わっているはずの仕事が、今日はまだまだ残っている。