恋を知らない人魚姫。




放課後、17時30分。

あたしはその大きな扉を、ゆっくりと押して開けた。

迎えてくれたのは、いつ来ても変わらない本の独特の匂い。それと、

小さな話し声だった。


あれ……?

少し驚いて見ると、貸出しカウンターに、女子がふたり。

扉側に座った子と目が合うと、その子はペコっと軽く頭を下げた。

そっか、図書委員……。

3年生にはもう回ってくることはないから、1年生か2年生。

あたしが呼び出される時は、いつも誰もいないから、今日もそんな光景を勝手に思い浮かべていた。

……だったら、やばいかも。

歩きながら、思う。
だって、他人がいるとなったら、ちゃんと話せる気がしない。

こうなったら、『あたしが当番代わります』って、申し出ようか。

カウンターの前で、足を止めかける。
でも、頭の中に浮かべた言葉は声にならず、あたしは結局そのまま進んだ。

彼が今までどうやって言いくるめていたかは知らないけど、あたしはそんなに上手く出来そうにない気がする。

それに、

もしかしたら来ない……かもしれないし。