「……」

“愛海”って呼びたいのに、呼べない。
息が詰まるように苦しい。

どうしよう、見ていられない。

引き返してしまおうかと思った時だった。

ドアの前に立ち尽くす、あたしに気付いたのは櫻井くん。

彼は「あ」と、口を開けて。

「……海憂っ!?」

櫻井くんの視線を追うようにして、愛海はやっとあたしの名前を呼んでくれた。



「どうしたの?」

廊下に出てきた愛海は、心配そうに首を傾げる。

「あ……えと、今日は放課後残ってくれなくていいから」

「え?」

「もうひとりの図書委員の子が、今日は出るって言ってて」

「それって……大丈夫なの?」

「大丈夫。先生に怒られたみたいだから、ちゃんと来るよ」

「そういう意味じゃなくて……」

「チャイム鳴っちゃうから、そろそろ行くね!」

必要なことだけ話して、素っ気なく背中を向ける。