恋を知らない人魚姫。


にっこりと笑って、“クレープふたつ”を意味しているのか、片手でピースサインを作る。

あたしはきょとんとした後、泣き顔を笑顔に変えた。

そして、頷く。

「三つでも、四つでも買ってあげる」

「えっ、そんなに食べらんないよ!? でも……」

新発売のマロンクリームも気になるんだよね……と、メニューを思い出し、ブツブツと呟く愛海。

「そんなに食べたら太るよ?」

思わず忠告すると、

「なっ!海憂が買ってくれるって言ったんじゃん!」

愛海はフグみたいに、頬を膨らませた。

そのまま3秒。
あたし達は見つめ合って。

タイミングを合わせたみたいに、「あはは」と声を上げて、一緒に笑った。


こうして、くだらないことで笑い合うのは久しぶり。

胸の奥から温かい気持ちが、じわりじわりと込み上げる。

あたしがしてしまったことは、クレープふたつで許されるようなことじゃないけれど、愛海が笑ってくれるなら、とりあえずはそれでいいのかもしれない。

足りないぶんは少しずつ、償っていく。