恋を知らない人魚姫。


愛海のことが好き。
世界中の誰よりも好き。

この気持ちが変わることなんて、一生ないと思っていた……のに、

愛海を目の前にして、感じる違和感。


何かが……違う。


「本当は気づいてるんでしょ?」

そう微笑んで、体をゆっくり離す愛海。

「……」

言葉が出てこない。
自分が自分でも信じられない。

キスしてしまいそうなくらい、愛海が近くにいたというのに、あたしが抱いた感情は……戸惑いだけ。

胸がドキドキして、苦しくなることもなければ、衝動に駆られることもなく、次起こるかもしれない展開に、期待することもなかった。

自分でも驚くくらい、冷静でいられた。


同じことをされた時、あたしが冷静でいられなくなる相手。

ドキッとして、口では拒みながらも、心がもっと近付きたいと、離れたくないと叫ぶ相手。

それはーー。


頭の中に浮かんだ、ひとりの人の顔に、あたしは唇をぎゅっと噛む。