恋を知らない人魚姫。


何で。どうして。
優しくなんかないじゃん……って、心の中で繰り返す。

なのに、そうすればそうするほど、思い出してしまうのは、


あたしの体調に気付いてくれたことや、慰めるように抱きしめてくれたこと。

いつも……傍にいてくれたこと。


「あたしに遠慮しなくていいよ。見てたらすぐに分かったから」

愛海は繋いでいない方の手で、そっとあたしの腕に触れる。

そして、

「本当は海憂もたっくんのこと、好きなんでしょ……?」

静まり返った教室に、響いた声。

「ちがっ……!あたしが好きなのは」

愛海だって、言おうとした瞬間、


体を、顔を、愛海はあたしに近付けた。


目の前に愛海の顔。
少し前のめりになっただけで、触れてしまいそうな距離。


「これでもまだ、好きだって言える? 海憂が好きなのは、本当に今もあたし……?」


真剣にあたしを見つめる愛海の瞳には、驚いた顔の自分が映ってる。