恋を知らない人魚姫。


「おか……おかしいよ!どうしたら櫻井くんが、あたしを好きだってことになるのっ!?」

有り得えない。
あり得なすぎて、声も大きくなる。

怒鳴られた感じになった愛海は、きょとんとした後、

「え……だって、付き合ってたんでしょ? 好きとか言われたことないの?」

と、聞いてきた。


好き……って。

そういえば一度、言われたことがあるような……気がする。


「……でも、そんなのっ、ただの冗談!」

本気なわけない!って、思ったのに、

「本当に?」

愛海はクスッと笑って。

「たっくん海憂に優しくなかった?」

あたしの瞳を覗き込む。


「優しくなんか……ないよ」

あたしの反応を面白がって、数えきれないくらい嫌なことをされた。


……でも。


「じゃあどうして、そんな顔するの?」

愛海の問いかけに、答えられない。


だって、口を開いたら……涙が零れてしまいそう。