恋を知らない人魚姫。


「……え?」

早口で言われたわけじゃない。
むしろ、愛海の口調はとてもゆっくりだった。

それなのに、言葉が頭の中で絡まる。

言ってることが、全く理解出来なくて……。

目を丸くしていると、愛海が口を開いた。

「海憂に彼氏が出来ちゃうかもしれないって思うと、嫌だった。何て言うか……遠ざかっちゃう気がして。だったらあたしが先に……って、思ったの」

それは、どこかで聞いたような意味合いの言葉。

そう……そうだ。
櫻井くんに愛海を取られたくなくて、彼と付き合うことにした、あたし。

……もしかして、

「あたしと、同じだったの……?」

聞くと、気まずそうな顔をして、愛海は頷いた。


何……それ。何それ。

今まで抱えていた、重たいものが降りたみたいに、肩の力が抜ける。

「じゃあ、櫻井くんのことが好きって言ってたのは、嘘なの?」

続けて口にした、質問。
これまでの流れから、頷く姿を予想していた。

だけど、愛海はぶんぶんと首を横に振って。

「初めは。でも、いつの間にか本当に好きになってた」

と、ハッキリ言った。