恋を知らない人魚姫。


騒がしかったさっきまでが、嘘のように静まりかえる。

ぶつかって来られたまま、俯き気味の愛海の顔を、見ることが出来ない。

今言われたばかりのことが、まだ理解出来ない。

だって、仲直りしたいとか、あたしが全部悪いわけじゃないとか、そんなこと……愛海が言ってくれるはずがなくて。


余計な期待をするのが怖い。

だからこれは夢。夢なんだって、自分自身に言い聞かす。

でも、夢は一向に覚めてくれない。
それどころか、手のひらと膝が脈打つようにジンジンと痛んで……。

どうして?……って、思った時だった。


愛海のつま先が、ゆっくりとこっちを向いて。

「大丈夫?」

少し屈んだ愛海が片手をまた、あたしに差し出した。

「っ……」

少し困ったように微笑んだ、愛海の顔。

その表情に、息が詰まる。

何で?どうして?って、頭の中で何度も何度も繰り返す。

とても信じられない。でも、

夢じゃないの……?

あたしは床についていた片手を浮かせ、差し出された手へと近付けた。