恋を知らない人魚姫。


「何でっ? こいつ、ずっと愛のこと騙してたんだよっ!?」

腕を掴まれ、立ち上がる愛海。

見上げると、愛海はふるふると首を横に振って、

「海憂が全部悪いわけじゃない」

友達であろう女子に向かって、静かに言った。そして、

「何言ってんの!? だって、愛」

「心配してくれてありがとう。でもこれは、あたしと海憂の問題だから」

説得しようとする言葉を、言葉で遮る。

さすがにこれには、バツの悪そうな顔をして、黙り込む女子。

愛海の腕を掴んでいた手も、するりと落とすみたいに離される。

「ごめんけど、ふたりにして貰っていい?」

続けて更に、口を開いた愛海に、

「何それっ……もういい、帰ろっ!」

ぎゅっと握り拳を作って、その子は背を向ける。

そして、机の上から乱暴に、ひとつの鞄を手に取ると、

ドンッ……と、愛海の体にわざと自分の体をぶつけて、教室を出た。

「志保!ちょっと待ってよ!」

「しーちゃんっ!」

その姿を追いかけて、次々に出て行く愛海のクラスメート。


教室には、あたしと愛海のふたりだけになった。