恋を知らない人魚姫。


だけど、覚悟したようなことは何も起きず、聞こえたのは「え?」と、戸惑う声のざわつき。

何……?

見えない状況に、ゆっくりと目を開いて顔を動かす。

すると、


目の前には、しゃがんだ愛海がいて。

開いた片方の手のひらを、あたしに向けて差し出していた。


「ごめんね」


真っ直ぐあたしを見つめ、震える声で言う愛海。


「何で……?」

心の中で思った、そのままの言葉を口にしたのは、あたしじゃない。

「何で愛が謝んのっ!?」

一変する声のトーン。
愛海の友達は、それこそ焦った様子で声を張り上げた。

愛海が謝る理由は、あたしもよく分からない。
それ以前に今、目の前に広がっている状況すら、上手く飲み込めない。

確かめるように、じっと見つめていると、愛海は伏し目がちに、

「海憂と仲直りしたいから」

と、口を動かした。