恋を知らない人魚姫。


「そこにいたから連れて来た」

やっと離される腕。

引っ張られていた反動で、よろめきながら目の前を見ると、ふたつ合わせた机を囲むように、3人の女子。

ひとつ空いた椅子はきっと、あたしを連れて来た子の座っていたものだろう。

痛いくらいに突き刺さる視線と、硬直する空気。

居た堪れなくて、少し目線をずらすと……そこには、愛海の姿があった。


席替えしたんだろうか。黒板に近い前方で、あたしの知らない位置だけど、多分愛海本人の席。

帰ろうとしていたところだったのか、机の上にはうさぎのマスコットの付いた鞄。


あたしが少し驚いたのは、愛海もこの輪の中にいると思っていたから。


某然とした様子で、あたしを見つめる愛海。

だけど、

「全部聞いてたみたいだよ」

クラスの友達の声に、パッと顔を逸らした。


「ねぇ、友達の男奪う時って、どんな気分なの?」

くるっと振り返って、微笑む。
だけどその表情をすぐに壊して、

「愛に謝れよ」

あたしを連れて来たその子は、腕組みし、冷たい目をして言った。