恋を知らない人魚姫。


廊下に誰もいなかったのと、封筒の重さのせいで、思ったよりも大きく響いてしまった音。

焦って拾おうとしゃがんだ時にはもう、遅かった。

「何の音?」

会話を弾ませていたひとりが、教室から顔を出して。

あたしと目を合わせると、少し驚いた表情をした後に、フッと笑った。

その女子は、愛海にあたしと櫻井くんのことを話したであろう……あの子。

「ちょうど良い所にいんじゃん」

そう言って近付いて来たその子は、あたしの腕をグイッと引っ張ると、

「盗み聞きしてないで、こっち来なよ」

さっきまであたしの話をしていた教室へと、連れ込もうとした。

なっ……だめっ!

「やっ、やめて!」

手を振り解こうと、必死に抵抗する。
だけど、廊下から入口までの距離はほんの数歩で。

あたしは呆気なく、教室へと引きずり込まれた。