恋を知らない人魚姫。



「愛もウザイと思うでしょ?」


……え。

聞こえた名前に、ピタリと体が固まる。

愛海も、いるの……?

教室に残る女子の輪の中に。
あたしの悪口を言う、輪の中に。


知らないうちに震え出す、指先。

聞いちゃダメだって分かっているのに、どうしてこういう時って動けないんだろう。


「そう……だね」


静まり返った教室から、微かに聞こえた声。

それは間違いなく、愛海の声だった。


廊下にひとり、立ち尽くす。

別に、庇ってくれるとか、思っていたわけじゃない。
嫌われてしまったことも、ちゃんと自覚していたつもりだった。

それでも、

胸がズキズキと痛くて、苦しい。
呼吸もし辛い。息が上がる。


あたしへの感情を、愛海にハッキリ口に出されるのは、想像以上にキツかった。