恋を知らない人魚姫。


多分そのまま階段を降りて、真っ直ぐ職員室へと向かえば良かったんだと思う。

なのに、その前にお手洗いに寄ろうとなんてしたから……

あたしは聞きたくもない話を、聞く羽目になった。


「月城、月城海憂!マジあいつウザいよね」

隣の教室を通り過ぎようとした時、耳に入った誰かの声。

普通なら、誰が何の話をしていようと気に留めない。
でも、フルネームで名前を呼ばれたら、さすがに足を止めてしまう。

「分かるー。この前も3組の井上だったっけ?に、告られてたよ。で、また興味ありませんってさ」

「ちょっと顔が良いからって、調子乗りすぎだよね」

「はっきり言えばいいのに。友達の男にしか興味ありませんーって」

「わー最低!」なんて言いながら、キャハハと笑い合う声の大合唱。

彼女達が、どんな進路を選択をしているか知らないけど、随分と気楽な人もいるものだ。

いや、あたしが少し真面目すぎるのかな……なんて、聞こえない皮肉を心の中で呟きながら、止めた足を動かそうとした時だった。