恋を知らない人魚姫。


ちゃんと考えてる。
すごい考えてる。

それでも“自分”が見つからないあたしは、一体どうしたらいい……?


自分が嫌で嫌でたまらなくて、滲んでゆく世界。

ここは道の真ん中。

零れ落ちそうになった涙を、隠すために俯いた……時だった。


ふと、耳に入ってきたメロディ。


あたしは慌てて顔を上げると、音がする方へ駆け寄った。

考えて行動したわけじゃなく、勝手に体が動いてた。


音の発信源は、すぐ隣に建っていたCDショップ。

ショーウィンドウに両手を当て、中のテレビを食い入るように見る。

映し出されているのは、涼しげなショートカットの女性アーティスト。
青空の下、白いワンピースで海岸を歩きながら、歌う姿。

何度か見たことのある映像。

頭の中で、ごちゃごちゃ考えていたことを全部吹き飛ばして、あたしの中に入ってきたそれは、単に好きなアーティストだからとか、好きな曲だからというわけではなくて。

その曲は、あの曲だった。