恋を知らない人魚姫。


自我がない。他人に用意されたレールの上しか、歩けないあたし。

高校入試の時もそう。
周りの波に合わせるように、先生に勧められた高校を受験しただけ。

愛海と同じ専門学校を選択していたのだって。
自分の意思で決めたことだと言いながら、結局それは愛海の敷いたレールの上でしかなかった。


空っぽ。
あたしの中には何もない。

本当に空っぽ。


元の場所に本を戻して、何も買わずに店を出た。


誰かが敷いたレールの上を歩くのは、もう嫌だ。

あたしも愛海や他の人みたいに、自分の選んだ道を進んでみたい。

ちゃんと普通に、普通の高校生みたいに、生きてみたい。

“おかしい自分”はもう嫌なのに、あたしは……。


立ち止まり、ぎゅっと作った握り拳。


こんな時に思い出したのは、彼の言葉。

『ちゃんと考えてんじゃん』

そう言ってくれた櫻井くんの声が蘇って、思わず泣きそうになった。