恋を知らない人魚姫。



ずっと、愛海と一緒にいることばかり考えていた。

愛海があたしの全てで、失ってしまった時はきっと、死んでしまうと思ってた。

息が出来なくなると思ってた。


だけど、実際にそうなった今も、あたしはちゃんと息を吸って、吐いて、生きていて。

愛海とは別の道を進もうとしている。

ただ……。


パタンと音を立て、あたしは開いていた本を閉じた。

制服のまま、ひとりで立ち寄った場所は、近所の書店。

そんなに大きいわけではなく、品揃えも良いわけではないけれど、一般的なものならだいたい揃っている。

そんな並べられた本の中から、あたしが手にしたのは、赤本と呼ばれる大学入試の過去問題集。

先生がリストアップしてくれた中から、ひとつ選んで手に取ってみた。

どの程度のものなのか、パラパラとめくって流し読んでみた問題は、意外と理解出来るものばかりで。

これなら今からでも勉強すれば、合格出来るんじゃないかと思った。


でも同時に、

あたしは空っぽなんだと、思い知った。