トントンとノックを2回した後に、引き戸を開ける。

すると、あたしを迎えたのは、肌寒く感じるくらい冷んやりとした空気と、いくつかの視線。

「失礼します」

せっかく冷えた空気が出て行きそうで、あたしは後ろ手で、引き戸をすぐさま閉めた。

そして、次々に外される視線の中、一番最後まであたしに目を向けていた人の元へと向かう。


「先生」

一言声をかけると、プリントをめくる手を止め、その人は顔を上げた。

“見慣れた”より、見飽きた顔の担任は、椅子を少し回転させ、あたしの方へと体を向けて、

「決まった?」

前置きひとつもなしに、いきなり本題をぶつけてきた。

まぁ、分かってはいたけど……。

「いえ、まだ……」

語尾を濁らせ、あたしは自分が手にしていたプリントを開く。

【進路希望調査表】

太字でそう書かれた文字の下、第一志望校の欄に書いた、学校名に二重線。

愛海と同じ、看護系の専門学校。
消したのは、あたし。