櫻井くんは、あたしを真っ直ぐ見つめると、そっと手を伸ばして頬に触れた。

そして、


「可哀想な人魚姫を助けるって、言ったじゃん」


彼の返事を聞いた瞬間、あたしの体の中の時計の針が、一秒止まった。

ちゃんとした答えが貰えるなんて、元々思ってはいなくて。
だからその返事は、予想通りと言えば予想通り……だけど。


「……また、そうやってはぐらかす!」

「別にはぐらかしたりしてないよ」

何でもないフリをして、慌てて彼から顔を逸らした。

何で……。

人知れず強く早くなる、あたしの鼓動。

何でまた、同じこと言うの……?


そう。
その言葉には、聞き覚えがあった。

以前、ここで、櫻井くんは全く同じことを口にした。

人魚姫を助ける……なんて意味の分からない発言、真に受ける方がおかしい。

でも、こうして2度も言われると、まるでそれが真実みたい。