恋を知らない人魚姫。


「誰が聞いても、マイナスではないと思うけど」

びっくりした。
まさか、そんな風に言ってくれるとは、思わなくて。

「案外さ、さっきいたのが愛ちゃんだとして、追いかけて行ったら、仲直り出来たりすんじゃない?」

仲直り……?

それは、思ってもみなかったことで。
櫻井くんの言葉に、心が揺れる。

手を床について、浮かしかけた腰。

でも、少し考えて……あたしはまた冷たいコンクリートに、お尻をつけた。

「……無理だよ」

さっきそこにいたのが愛海だったのなら、尚更近付けない。

何故なら愛海は、櫻井くんの声に背を向け、遠ざかって行ったから。
今朝だって……愛海はあたしから、目を逸らした。

それが答えだと思うから、それが愛海の気持ちだと思うから、決めたの。

「もう近付かないって、決めたの」

仲直りなんて、望んじゃいけない。
あたしは愛海から、離れなきゃいけない。

「やっと解放してあげられたんだから……」