言い終えて、膝を抱える腕の力を、ほんの少し強くする。
初めて口に出した愛海への気持ちは、自分の中へも、じわりと浸み込むようで。
……でも、少し余計なことまで、喋りすぎたかもしれない。
急にそう思って恥ずかしくなったのは、櫻井くんが何も言わないから。
「あのっ……」
沈黙が嫌で、慌てて声をかけようとした。だけど、隣に顔を向けた瞬間、あたしの行動は止まる。
目に飛び込んできたのは、濃い茶髪の後頭部。
隣に座った櫻井くんの顔は、あたしの方へ向いていなければ、真っ直ぐ前を向いているわけでもなかった。
視線の先までは分からない。
でも、顔を向けているのは出入り口の方で。
「だってさ。そこにいるんでしょ」
櫻井くんの発言に、あたしは茫然とする。
誰かいるの?……って、そんな疑問は声にならない。
体は石のように固まって、現れるかもしれない人の姿に、一瞬呼吸さえ忘れる。



