恋を知らない人魚姫。



「愛ちゃんにも裏があったとか、思わないのかってこと」


ほら……やっぱり。

考えていた通りの、予想通りのことを言われた。

それなのに、まるで突然言われたことのように、ドクンッ……と、重く跳ねた心臓。


どんなに酷い言葉を吐かれたって、あたしが耳にしたそれは、愛海本人の言葉ではなかった。

だけど、櫻井くんと愛海は同じクラス。

もしかして……。

「何か……」

聞いたの?って、問いかけようとした。

でも、その口を直前で閉じる。


愛海に裏の顔があって。
仲良くしてくれていたのは、何か思惑があってのことで……利用されていたのかもしれない。

そんな風に思えば、あたしの中の罪悪感は薄れ、

きっとすごく楽になる。


だけど、

あたしの脳裏に浮かんだのは、愛海の笑顔。


今でも鮮明に覚えてる。

高校へ入学した日、名前に“海”が入っているのを喜んで、友達になってと言ってくれた……あの笑顔。