恋を知らない人魚姫。


「やっぱ大丈夫じゃないじゃん」

そう言って、苦笑する櫻井くん。

そんなことない……って、言い返したいのに、それが出来ないのは、涙が零れ落ちてしまったから。


あたしの頭をポンポンと、繰り返し撫でる手。

それはとても温かくて、優しくて……喉と、胸の奥が塩辛い。


大丈夫じゃないのは、
きっと……この手のせいで。


でも、そんなこと言えない。
気付くはずもない彼は、

「月城さんはさ、愛ちゃんのこと疑ったりしないわけ?」

当たり前みたいに、愛海の話をぶつけてきた。

「うたが……う?」

涙を拭って、聞き返す。すると、

「そ。だってあんだけ仲良くしてた割に、あっさり手のひら返されて、好き勝手言われ放題じゃん」

彼が口にしたのは、今日の状況。

言われたその通り、あたしが愛海の彼を奪ったとか、裏切ったとか、悪い噂が3年生の間で蔓延している。

でも、

「それはあたしが」

「悪いから?……に、してもさ、元々変だったと思わない? 月城さんはハブられてんのに、何で愛ちゃんは他と仲良くしてられんの?」

「……何が言いたいの?」

嫌な予感がした。

ここまで言われたら、本当は聞かなくても分かってしまった。