恋を知らない人魚姫。




4時間目、午前中最後の授業が終わってから、あたしは屋上へと上がった。

ふわふわした、真っ白な雲がまばらに浮かぶ空の下。日陰に座り込んで、立てた膝を抱える腕に、くっ付けた額。

生ぬるい風が、時々前髪をさらって。

何を考えるわけでもない。
遠くで聞こえる蝉の声に耳を澄まして、ボーッとしていただけだった。


そんなあたしの顔を上げさせたのは、

キィ……と擦れるような、ドアを開ける音。


ビクッと肩が跳ね上がって。
鼓動も突然うるさくなる。

近付いてくる足音に動揺して、どうしよう……なんて思った時だった。

目の前に現れたその人は、

「またー。ちゃんと食べなきゃ駄目じゃん。……って、食べられるわけないか」

櫻井くんだった。


何だ……。

上がった肩が、ストンと落ちる。
もちろんそれは無意識だったけど、

「……誰か他の人だと思った?」

隣に置いていた、綺麗に包まれたままのお弁当から目を移した彼に、気付かれてしまった。