恋を知らない人魚姫。


「うわ、噂をすれば登場」

誰が言ったのかは、分からない。

でも、愛海じゃないことだけは分かるのは、あたしが彼女の顔しか見ていないから。

対する愛海が、あたしを見てくれたのは、ほんの一瞬だけ。

目が合って、少し驚いたみたいに目を丸くした愛海は、すぐに表情を曇らせて、顔を逸らした。

そして、

「……行こ」

壁にくっ付けていた背中を離して、教室へと戻ろうとする。

その背中を支えるみたいに手を添えて、

「愛、大丈夫?」

「無理しちゃダメだよ?」

口々に心配の言葉をかける、愛海の友達たち。

こういうの、慣れてる。
頭の中、考えること一緒なの?って思うくらい、みんな同じことをしてくれるから、何とも感じなくなってしまった……はずだった。

なのに、

今日は痛い。
ものすごく、痛い。

愛海……。

動かなかった足が一歩、自然と前へ進んだ。その時、

「男に見境なさすぎ」

愛海の友達のひとりが振り返って、あたしに言った。