恋を知らない人魚姫。


靴を履き替え、階段を上がって。
教室まであと数歩……の所で、あたしは思わず足を止めた。

3年生全クラスが繋がっている廊下。

窓側の壁に寄り掛かるようにして、あたしのクラスの少し先に立っていた女子。

その子の姿を見た瞬間、体が固まった。


「えっ? それってマジなの?」

「あり得ない!」

数人の女子に囲まれ、困った表情を浮かべているのは、愛海。

……だめ。
これ以上は聞かない方がいい。

胸の奥で、危険信号が鳴る。
だけど、動かない体。

ドクンドクンと、鼓動だけが大きく早くなって……。

ただ立ち尽くすあたしに気付いたのは、愛海の隣に立っていた女子だった。

それは昨日の朝、愛海を連れ去って行った、あの子。

目が合って、ハッとした瞬間にはもう遅かった。

とても険しい顔をして、その子は“見て”と、肘で愛海に合図する。

そして、こっちへ向けられる視線。

愛海も、その周りも、あたしに気付いた。