恋を知らない人魚姫。




大丈夫、だいじょうぶ、ダイジョーブ……。

まるで呪文。
頭の中でずっと繰り返しながら、歩き慣れた道を進む。

窓の内側から見上げた空は、とても清々しかったのに、一歩外に出てみたら、清々しさなんて吹っ飛んだ。

暑い。とにかく暑い。

9月だというのに弱さをみせない太陽の熱が、肌をジリジリ焼いていく……そんな感じ。

いつもなら「暑いね」って、何でもない会話をする人が隣にいるのに……


今日はひとり。


分かっていたから、足を止めたりしなかった。
愛海を待ったり、探したりしなかった。


同じ制服を着た人達が、まばらに歩いていく中を、何でもない顔をして歩く。

……嘘。真っ直ぐ顔を上げられなくて、ちょっと俯き気味。

でも、世界を大きく遠く見てみれば、何も変わってなくて。
いつもの穏やかな登校シーンで。

変わったのは、とても小さなこと。

そう思えば、ほんの少し落ち着ける気がした。


……だけど、学校へ着くと同時に、あたしは現実を思い知らされる。