恋を知らない人魚姫。


目と目を合わせ、少し恥ずかしそうにはにかむ愛海と、微笑む櫻井くん。

とても幸せそうなふたり。

だけどあたしは……全然嬉しくない。

むしろ、苦しい。
息が詰まりそう。

耐えきれず、目を逸らそうとした時、

愛海があたしの手を取った。

「ありがとう海憂。海憂が応援してくれたおかげだよ!」

無邪気な笑顔。
大好きだった、その表情。

それなのに……嫌だ。
すごく、すごくすごく嫌。

やめて。


「……やめてよっ!」


思うがまま、声を張り上げて。
愛海の手を振り払った瞬間、




あたしの目に、ハッと飛び込んできたのは、灰色。


それが自分の部屋の天井だと気付いたのは、ほんの少し時間を置いてから。

夢……。

たった一言で、済ませられる出来事。

ものすごくホッとして。
でも、やけに後味が悪い。


布団の中の右手を出して、宙に浮かべてみる。

じんじんと痛んでいるような気がする。
振り払った感触を、覚えてる。