恋を知らない人魚姫。


「は、離してっ……」

状況を理解したあたしは、少し焦って声を上げる。だけど、

「助けてって言ったじゃん」

櫻井くんの力は、きゅっと強くなる。

「言った……けどっ、こういう意味じゃ……」

だめ。今度こそ拒まなきゃ。

そう思うのに、力が入らない。

何で……どうして?

まるで心の中に、もうひとり自分がいるみたい。


こんなの、愛海を裏切り続けてることと変わらないって分かっているのに、

抱きしめられて、安心している……そんなあたしがいる。


「愛ちゃんに言ったこと、後悔してんの?」

耳の後ろで聞こえた、櫻井くんの声。

戸惑いながらも、あたしは抱きしめられるがまま、

「わかんないっ……」

彼の胸に顔を埋めて、返事した。

状況が状況だっただけに、言わなきゃならない部分もあった。

だけど、愛海に対する本当の気持ちを打ち明けたのは、自分の意思。

溢れて止まらなかった、あたしの気持ち。