恋を知らない人魚姫。


「何それ……」

さっきよりも遥かに、声が震える。

「それって何、あたしのことバカにしてたってこと? あたし海憂に何かした?」

大きな目から零れ落ちた涙。
それを拭いながら、愛海は頭を抱える。

「バカにしてたとか、そんなっ……」

そんなことはないって、すかさず否定しようとした。

だけど、

「だっておかしいじゃん!好きでもないのに付き合ってるとか! あたしのことバカにしてたとしか思えないよ!!」

キーンと余韻を残すくらい、廊下に響いた愛海の声。

その言葉は廊下だけじゃなく、あたしの心の中にも大きく響いた。


愛海の頭が導き出した答え。

それがきっと、“普通”。

あたしはやっぱり普通じゃないんだと、こんな時でさえ自覚させられる。


壊れてる。オカシイ。

だから、気付いてもらえない。

言わなきゃ絶対に気付いてもらえない。


「……違うの」

泣きじゃくる愛海を目の前に、静かに口を開いた。