恋を知らない人魚姫。


「あのっ……」

向けられた背中。大きく上下する肩に、言葉をかけようとする。

でも、呼び止めたのはあたしのくせに、それ以上言葉が続けられない。

何を言ったらいいのか分からない。

すると、口を開いたのは愛海。


「前にもこんなこと……あったよね」

消えてしまいそうな、掠れ声。

「あの時から、騙してたの? それともあの後、付き合うことになったの……?」

「……」

「たっくんの彼女って、海憂のことだったの……?」

ポロポロと零される質問。
嘘が、どんどん剥がされてく。

『違う』って言いたいけど、今更言えるはずもなくて。

黙り込んだまま、身動き取れずにいると、

「ねぇ、ちゃんと答えてよ! 何で!?どうしてっ?」

愛海は突然振り返って近付いてきて、ブラウスを掴んだ。

ゆらゆら溜まった涙に揺れる、愛海の瞳。

キスしているところを見られてしまった以上、誤魔化すことはもう出来ない。