恋を知らない人魚姫。


頭の中がグラグラ揺れる。

目の前の状況を見つめながら、これは夢だって、早く覚めてって思った。

だけど、やけにリアルな胸の鼓動。


「何で……海憂が……」

ひとりごとみたいに呟いてから、愛海はぎゅっと口を閉じた。

そして、落としたケータイを拾い上げると、

「ごめんっ……」

あたし達に背を向けた。

パタパタと、遠ざかりながら響く足音。

「愛海っ!」

あたしは櫻井くんを押し退けて、飛び出していった愛海を追いかけて走り出した。


出来るなら、夢であって欲しい。

でも、夢じゃないんだと、足裏にじんと伝わる感触が教えてくる。


「待って愛海!」

開いた距離に、張り上げた声。

正直、待ってくれるはずないと思った。

だけど、あたしの声を聞いた愛海は、ゆっくりと足を止めて。


一気に縮まる距離。

少し間を開けて、あたしも足を止めた。