恋を知らない人魚姫。


ふぅ……っと小さく息を吐いて、パソコンに表示された時刻を見る。

17時46分。

「そろそろ帰ろっか」

図書室の利用時間は18時まで。
あたしは愛海に静かに言って、片付けを始めようとした。

だけど、

「……海憂」

愛海の小さな声が、あたしの手をピタッと止める。

同時にドクンッと、心臓が一度跳ねたのは、愛海の声のトーンが低くなったから。

穏やかだったはずの空気は、一瞬にして張りつめたものに変わる。

感じる嫌な予感。


恐る恐る見れば、愛海はあたしの方を見てはおらず、伏し目がちに手元を見ていた。

そして、


「さっき……ね、たっくんと何話してたの……?」


ほんの少し、震えて聞こえた声。

あたしはただ黙って、目を丸くする。

やっぱり見られてた……?

顔を上げない愛海の姿に、あたしの指先は恐怖から、微かに震え出す。


愛海が何を見たのか聞いたのか、あたしには分からない。

だからと言って聞くのも、逆に怪しい。

だったら――。