恋を知らない人魚姫。


「……これ、どういう意味?」

櫻井くんの手を掴んだ、あたしの手。
それに目を向けて、彼が尋ねる。

「わからない」

本当に分からない。

愛海に信じていると言われて、別れたいと、別れなきゃと思った。

あたしは愛海の友達だから。
愛海はあたしの一番大切な人だから。

もうあの子を裏切るようなことはしたくない。

そう思った気持ちに嘘はない。
神様に誓って、絶対に。


なのに、実際に別れたいと告げ、受け入れられてから、心の中には隙間風が吹いてる。

自分でもよく分からない、ハッキリしないモヤモヤした気持ち……これは何?

自分の心が見えない。
何を望んでいるのか、分からない。


まるで、そんな心の中の声が聞こえてしまったみたいだった。


掴んでいたはずの手が、突然掴み返されて。

グイッと引き寄せられ、本棚の側面に背中をぶつける。


顔のすぐ横には、彼の長い腕。

目の前には、彼の顔。