恋を知らない人魚姫。


最低、最低、最低……。

それでいい。
櫻井くんは最低な人。

それはある意味、最も櫻井くんらしい言葉……だったのに、

どうして“違う”なんて、思ってしまってるんだろう。

『することしたから』なんて理由じゃ、納得出来ない。
そんなあたしの気も知らず、

「もういい?」

櫻井くんは背を向けようとして、

「やだっ……」

あたしは咄嗟に、また彼の手を掴んだ。


別れてというあたしの要求に従う、彼らしくない行動が納得出来なくて。

彼らしい最低な発言も納得出来なくて。

じゃああたしは、一体櫻井くんにどう振舞って欲しいっていうの……?


もともと二人だけの静かな空間。

だけど、あたしが彼を引き止めたその瞬間、空気がもっと静かなものに、張り詰めたものに、変わった気がした。