恋を知らない人魚姫。


別れてくれるって言っているんだから、このまま終わりにすれば良かった。

こんなに都合の良いこと、他にないはずだった。

……なのに、


「待ってよ!」

あたしは櫻井くんの腕を掴んで、引き止めていた。

「何で急に……」

別れてくれる気になったのか。
気になって気になって、しょうがない。

振り返った櫻井くんは、「んー……」と少し考える声を漏らしてから、

「することしたから?」

ケロっとした表情で言った。


すること……した?
それってーー。


「っ!……最低っ!!」

“すること”を、思い出してしまった恥ずかしさと、怒鳴った反動で、顔が熱くなる。

驚くほど響いた声のせいか、振り払うみたいに手を離したせいなのか、少し後ろによろける櫻井くん。

その表情は、反応を面白がっているような苦笑で。


最低。

もう一度、その言葉を心の中で呟く。