恋を知らない人魚姫。


いいよ……って、

「……何が?」

「何がって、自分が言ったんじゃん。終わりにしたいって」

言った。確かに言ったけど……。

「いいよ、別れよ」

さっぱりとした笑顔で、あっさりと言う櫻井くん。

本気で意味が分からない。

いや、分かった。
その代わり……って、きっとこれからあり得ない条件を突きつけるんだ。

そうだ。そうに違いないって思った。

だけど、

「じゃあこれ、最後に片付けておいて」

「はい」と、胸の前に差し出された一冊の本。
あたしがそれを反射的に受け取ると、

「よろしく」

それだけの、たった一言の言葉を残して、通り過ぎて行った。


カーテンが、音も立てずに静かに揺れる。

これ……で、終わり?
終わったの……?

信じられなくて、頭の中が真っ白。

だって、この前までは『認めない』って、言ってたはずなのに。

どうして今更こんな……。