恋を知らない人魚姫。


後ろめたく感じるようなことは、もうしたくなかった。
だから出来ることなら、愛海と一緒に帰りたかった。

それなのに今、ここにいる理由。

それは……


「……もう、終わりにしたいの」


あたしと櫻井くんの関係。
今度こそ終わりにするために、ここに来た。


風でフワッと膨らんだカーテンが、彼の姿を一旦隠す。

その隙にあたしは、

「お願いだから、別れて」

一度拒否された言葉を、もう一度口にした。

面と向かっては、言い難かった。
何故なら、拒否されるのは分かっているから。

それでも今日は、引き下がるつもりなんかない。
どんな脅しをかけられても、絶対終わりにする……って、心に決めて来た。


大きく膨らんだカーテンが、ゆっくり元の位置へと戻ろうとする。

彼の顔が見えそうになって、あたしは目線だけを下に落とした。

気になる……けど、見れない。

いくら返事が分かっていると言っても、
申し出が申し出だけに、緊張せずにはいられない。