恋を知らない人魚姫。


きれいとか、何言っちゃってんの!?
しかも、櫻井くん相手に……!

信じられなくて、恥ずかしくて、顔が一瞬にして熱くなる。

まだ言いたいことひとつも言えてないのに、もう既に逃げたい。

気まずくて、とりあえず目だけ逸らす……と、

「今日は来ないと思った」

パタンと本を閉じた音と一緒に、彼の声が響いた。

来ないと思った……?

言葉の意味よりも、発言そのものに驚いて、目線を戻す。

だってそれは、思っていたものと違う。

「聞こえなかった……の?」

「何が?」

「いや、何でもない」

聞こえていなかったなら、それでいい。

助かった……と、肩を下ろすあたしに、
櫻井くんは不思議そうな目を向けながら、

「愛ちゃんと帰らなかったんだ?」

と、聞いてきた。


愛ちゃん、愛海。
その名前を聞いた途端に思い出す。

あたしが今日、ここに来た理由。