恋を知らない人魚姫。


本棚と本棚の間を歩きながら、その姿を探す。

“放課後”と伝えられただけで、そもそも会いたいとも、どこにいるとも、何とも言われていない。

だけど、ここで待ってるって意味だと思った。
彼は絶対ここにいる。


差し込む光に導かれるように、あたしは本棚の小道を抜ける。


グランドの見える、並んだ窓。
その一番奥に、ふわふわと揺れるカーテン。

まるでそれを目印にしてくれていたみたいに、探していた人はそこにいた。

壁に寄りかかって本を読むその姿を、隙間から溢れるオレンジの光が照らす。


一歩も動けない。

考えていたことはいっぱいあったのに、全部一瞬にして忘れる。

それくらい、


「きれい……」


思わず上げてしまった声が、静かだった空間を壊した。

本からパッとこっちへ向けられる視線。

ドキッとして、口をギュッと閉じる。