「……え。一緒に帰れないの?」
今日最後の授業が終わり、多くの人が行き交う廊下。
大きな目を真ん丸にして、目の前に立つのは愛海。
「うん、ちょっと先生に呼ばれちゃって……ごめん」
最もらしくて、嘘っぽい理由。
それは今日の場合、後者。
「そうなんだ……」
浮かない顔をして、視線を落とす。
その気持ちを表すように、肩にかけた鞄の手さげ部分が、一本落ちる。
こういう顔をされるのは、初めから分かってた。だから、出来ればメールで伝えたかった。
でも、今こうして直接伝えることになってしまっているのは、愛海が教室に来る直前まで、迷っていたから。
「遅くなるかもしれないし、待って貰ってても悪いから」
「あたしは良いけど……仕方ないね」
ずり落ちた手さげを上げながら、向けられた笑顔は少し寂しそうで、チクンと胸が痛む。
でも、今日が最後。



