恋を知らない人魚姫。


「海憂ごめん。ちょっと先に教室戻ってもいいかな?」

顔を上げ、こっちに目を向けた愛海の表情は穏やか。

でも、今のは見間違えじゃないと思う。

「何かあったの……?」

恐る恐る聞くと、

「ううん、別に。ちょっとクラスの友達に呼ばれちゃって」

と、苦笑した。


何かを隠すような笑い方じゃない。

本当に、仕方ないな……っていう感じの笑い方。

それなのに、どうしようもなく胸騒ぎがするのはどうしてだろう。

『何で呼ばれたの?』って、聞けたら楽なのに、聞けなくて。

「……分かった」

了承する返事を、ひとつ返す。


手際良く、ほとんど空になっていたお弁当箱を片付ける愛海。

ピンクドットのランチバッグ。そのファスナーを仕上げにキュッと閉めると、立ち上がった。

「本当にごめんね。放課後、そっち行くから」

今朝、友達に連れられた時と同じ言葉を残して、教室へと戻ろうとする。

ギィ……っと、少し重たい音が後ろからして。
校舎の中に戻って行ったと思ったあたしは、ため息をひとつ零しかけた。

その時だった。